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名古屋地方裁判所 平成10年(ワ)641号 判決 1999年6月16日

原告

有限会社愛康産業

右代表者代表取締役

川村康博

右訴訟代理人弁護士

松永辰男

被告

北海道

右代表者知事

堀達也

右訴訟代理人弁護士

山根喬

右指定代理人

竹内正樹

外九名

主文

一  被告は、原告に対し、七七四万円及びこれに対する平成七年九月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを四〇分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、一億〇〇八七万三三四八円及びこれに対する平成七年九月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事実関係

一  請求原因

1  原告は、平成七年六月二八日、平成九年法律第八五号による改正前の廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「法」という。)第一五条一項に基づき、北海道知事に対し、北海道釧路市武佐<番地略>、同番五六、同番一三六、同番一三七の土地(以下「本件土地」という。)を設置場所(以下「本件設置場所」という。)とする産業廃棄物処理施設(以下「本件処理施設」という。)の設置許可申請(以下「本件許可申請」という。)をしたが、本件処理施設は法一五条二項各号に適合し、許可要件を具備していた。

2  しかるに、北海道知事は、同年九月一八日、本件許可申請を不許可にする処分(以下「本件不許可処分」という。)をし、そのため、原告は、本件土地の利用権等財産権の行使を侵害される被害を受けた。

なお、原告は、札幌地方裁判所に対し本件不許可処分の取消を求める行政事件訴訟(平成七年(行ウ)第一一号事件として係属、以下「前訴」という。)を提起し、同裁判所において平成九年二月一三日原告の請求を認容する旨の判決が言い渡され、控訴審の札幌高等裁判所においても控訴棄却の判決が言い渡され、その後右の取消判決が確定した。

3(一)  本件不許可処分の理由は、法一五条二項各号の適否以外の事由、すなわち、建設用重機の使用や廃棄物運搬車両の通行に伴う周辺住民の生活環境や生徒の学習環境などへの影響を理由とするものである。

(二)(1)  しかし、法一五条一項の許可に当たって都道府県知事に与えられた裁量は、同条二項の適否の点に限られるのであって、同条同項の定める要件に適合すると認められるときは許可を拒むことはできず、覊束裁量であるとするのが確立された解釈であるから、北海道知事が同条同項各号の適否以外の事由により本件許可申請を不許可にしたことは、法一五条の解釈を誤ったものであり、かつ、法の適正な執行等の都道府県知事の職責に照らせば、北海道知事が右のとおり法解釈を誤ったことについては過失がある。

(2) また、本件不許可処分の理由である建設用重機の使用や廃棄物運搬車両の通行に伴う周辺住民の生活環境や生徒の学習環境などへの影響は、許可の不要な用地の埋め立て、大規模開発、大規模建設などであっても必ず発生するものであり、さらには右のような工事がなくても、公道が設置されれば、大型車両の通行の制限がない限り、同様の影響が生ずるものであるから、実質的に考えても、本件許可申請を不許可にする理由にはなりえないものであり、したがって、この点からも、北海道知事が本件不許可処分をしたことについては過失がある。

4  本件不許可処分により、原告は、本件土地の利用権等財産権の行使を侵害され、次の各損害を被った。

(一) 原告は、本件処理施設による廃棄物処理事業の準備資金として、合計二〇一三万一四四七円を他から借り受けた。原告は、本件不許可処分がなければ、少なくとも本件不許可処分の日の翌日である平成七年九月一九日以降は右事業を遂行し、右借入金も有効に運用できたものであるところ、本件不許可処分により、同日から平成一〇年一月三一日までのうち八三四日間右事業を遂行できず、右借入金を運用できなかったため、少なくともこの間の右借入金に対する年五分の割合に相当する二二九万九九四八円の損害を被った。

(二)(1) 原告は、平成六年四月一八日、川原義信との間で、本件設置場所として同人から賃借した本件土地について、平成一六年四月一八日までに、馬場として使用できるよう埋立整地工事を完了する旨約し、右の期限を徒過したときは、一日につき一〇万円の割合による損害金を支払う旨を約した。

(2) 原告は、本件不許可処分により、少なくとも本件不許可処分の日の翌日である平成七年九月一九日から平成一〇年一月三一日までのうち八三五日間、右約定にかかる埋立整地工事を実施できなかったため、少なくとも右の日数に相当する分だけ右(1)の期限を徒過することは必至であり、これにより八三五〇万円の損害賠償債務を負うこととなった。

(三) 原告は、本件不許可処分による原告の財産権の行使に対する侵害の回復を図るため、本件不許可処分の取消を求めて、本件原告訴訟代理人に前訴の提起と追行を委任し、その弁護士費用として、第一審及び第二審の訴え提起及び追行に対する報酬として、日本弁護士連合会の報酬基準に基づき、各審級ともそれぞれ着手金として一四〇万円、勝訴の報酬として二五〇万円とすることを合意した。

(四)(1) 原告(又はこれに代わる者)及び本件原告訴訟代理人は、前訴事件の口頭弁論期日(判決言渡し期日を含む。以下同じ。)出頭のため札幌地方裁判所及び札幌高等裁判所へ九回出廷し、往復の旅費として一人当たり一往復五万六三〇〇円の九往復分五〇万六七〇〇円(合計一〇一万三四〇〇円)を出捐した。

(2) また、原告(又はこれに代わる者)及び本件原告訴訟代理人は、北海道釧路市における前訴事件の検証期日に出頭するため、旅費及び宿泊(一泊)代として一人当たり八万円(合計一六万円)を要した。

(五) 本件原告訴訟代理人は、前訴事件のため北海道釧路市で実施された検証期日の出頭を含め、一一日間出張し、原告は、本件原告訴訟代理人に対し、右出張の日当として、一日一〇万円の割合による金員を支払う旨を約した。

(六) 原告は、本件原告訴訟代理人に対し、本訴の提起と追行を委任し、その弁護士費用として五〇〇万円を支払う旨約した。

5  よって、原告は、被告に対し、国家賠償法一条一項に基づき、前記損害金合計一億〇〇八七万三三四八円及びこれに対する本件不許可処分の日の翌日である平成七年九月一九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、原告主張の日に原告から北海道知事に対し、本件許可申請がなされたこと、及び、本件処理施設が法一五条二項各号に適合していたことは認める。

2  同2の事実中、原告主張の日に北海道知事が本件不許可処分をしたこと、及び原告主張の経過で本件不許可処分取消判決がなされて確定したことは認める。

3(一)  同3(一)の事実は認める。

(二)  同3(二)(1)、(2)の各事実は争う。

本件設置場所は、都市計画法の第一種及び第二種住居専用地域に近接し、周辺五〇〇メートル以内には約一二〇〇個の住宅があり、約三〇〇〇人の住民が居住しており、本件処理施設の設置場所の境界線と最も近い民家までの距離は約10.5メートルである上、高等学校、老人福祉センター、保育所等の複数の文教・福祉施設が存在し、うち本件処理施設の設置場所の境界線と最寄りの高等学校の敷地までの距離は最も近い地点で約66.5メートルであるという立地条件にあった。したがって、本件処理施設を設置すれば、建設用重機の使用や廃棄物運搬車両の通行に伴い、周辺住民の生活環境や生徒の学習環境などに大きな影響を及ぼすこととなる。

そこで、北海道知事は、本件処理施設の立地自体が住民の生活環境と生徒の学習環境の保全上著しく不適当なものと判断した。

法は、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的としているところ(一条)、産業廃棄物処理施設の設置許可についてこれを見ると、「公衆衛生の向上」については、法一五条二項各号に適合することによって目的を達することができるのに対し、「生活環境の保全」については、右適合性の要件を充足するだけでは、その目的を達することができない場合があり、また、法一五条三項で都道府県知事は許可に当たって生活環境の保全上必要な条件を付することができるとされているが、前記のような立地条件にある本件処理施設の設置の場合には、そもそも条件を付しても地域の生活環境の保全が達成できないのであり、このように条件を付しても生活環境を保全できない場合においても、法一五条二項各号の適合性を満たしている限り、許可するほかないというのは不合理である。

さらに、都道府県は、普通地方公共団体自身の事務として住民の安全及び健康を保持し(地方自治法二条三項一号)、公害の防止その他の環境の整備保全(同項七号)を図るべき責務を有しており、同時に産業廃棄物処理施設の設置許可のような機関委任事務においても、誠実に管理し及び執行する義務を負っているから(同一三八条の二)、本件許可申請のように、住民多数の日常生活圏に廃棄物処理施設を設置しようとするものであって、法が通常予定しているものではなく、法一五条三項の条件を付することでは生活環境の保全という目的を到底達し得ない場合には、都道府県知事において、条件を付する以前の問題として、許可そのものを拒否する裁量があると解するのが法の合理的な解釈である。

してみれば、本件許可申請についての北海道知事の判断自体には合理性があり、また、法一五条の解釈に関しては、前訴事件の判決が初めての裁判例であって、学説においても、当時これを直接論じたものはなかったから、本件許可申請を不許可にした北海道知事の判断が、都道府県知事の職務上要求される通常の法律上の知識、経験法則に基づく判断として相当性を欠くものとはいえない。

4(一)  同4(一)ないし(三)の各事実はいずれも争う。

(二)  同4(四)(1)、(2)の各事実中、本件原告訴訟代理人が前訴事件の口頭弁論期日のために札幌地方裁判所及び札幌高等裁判所へ九回出廷し、北海道釧路市における前訴の検証期日に出頭したことは認め、その余の事実は争う。

第三  当裁判所の判断

一  原告が、平成七年六月二八日、法一五条一項に基づき、北海道知事に対し、本件土地を設置場所(本件設置場所)とする産業廃棄物処理施設である本件処理施設の設置許可申請(本件許可申請)をし、本件処理施設が法一五条二項各号に適合していたこと、ところが、北海道知事は、同年九月一八日、本件許可申請を不許可にする処分(本件不許可処分)をしたことは、当事者間に争いがない。

そうしたところ、法一五条二項は、廃棄物処理施設設置許可申請にかかる廃棄物処理施設が同条同項各号に適合するときは、都道府県知事において許可を拒むことができず、必ず許可すべき旨を定めたものと解するのが相当であるから、北海道知事のした本件不許可処分は右の規定に違反するものであり、原告は、右の違法な本件不許可処分により、本件土地の利用権等財産権の行使を侵害される被害を受けたものというべきである。

二  そこで、北海道知事が違法な本件不許可処分をしたことにつき過失があったか否かについて検討する。

1  本件不許可処分の理由が、法一五条二項各号の適否以外の事由、すなわち、建設用重機の使用や廃棄物運搬車両の通行に伴う周辺住民の生活環境や生徒の学習環境などへの影響にあったことは当事者間に争いがなく、右の事実と甲第一、第二号証、第一〇号証の一、二、乙第六号証の一ないし三によれば、北海道知事は、次のような法解釈及び事実認識に基づき本件不許可処分をしたものと認められる。すなわち、

(一) 法は、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを法律の目的とするが(一条)、法一五条二項の産業廃棄物処理施設の適合性の要件は、そのうち公衆衛生の向上に関係するだけであって、右の要件が充足されても生活環境の保全が図れるとは限らないところ、法一五条三項は、この場合の生活環境の保全に関し、都道府県知事は同条二項の許可に当たって生活環境の保全上必要な条件を付することができると定めているから、これらの規定を総合的合理的に解釈すれば、産業廃棄物処理施設が同条同項各号に適合していても、当該施設の設置によって、同条三項の定める条件を付しても生活環境を保全できない事情のある場合には、申請を不許可にすることができるものと解すべきであり、そのような場合についてまで許可をしなければならないとするのは不合理である。

また、地方自治法は、都道府県に対し、普通地方公共団体自身の事務として住民の安全及び健康を保持し(二条三項一号)、公害の防止その他の環境の整備保全を図るべき旨(同項七号)、同時に産業廃棄物処理施設の設置許可のような機関委任事務においても、誠実に管理し及び執行する義務を負う旨定めている(同一三八条の二)から、これらの諸規定に照らしても、都道府県知事は、産業廃棄物処理施設設置許可申請に対し、当該申請にかかる施設が法一五条二項各号に適合していれば必ず許可しなければならないものではなく、なお許可するかどうかの裁量権を与えられ、当該施設の設置によって、同条三項の定める条件を付しても生活環境を保全できない事情のある場合には、申請を不許可にすることも許されるものと解される。

(二) そこで、右(一)の見地に立って本件許可申請をみると、本件設置場所は、都市計画法の第一種及び第二種住居専用地域に近接し、周辺五〇〇メートル以内には、約一二〇〇個の住宅があり、約三〇〇〇人の住民が居住しており、本件処理施設の設置場所の境界線と最も近い民家までの距離は約10.5メートルである上、高等学校、老人福祉センター、保育所等の複数の文教・福祉施設が存在し、そのうち本件処理施設の設置場所の境界線と最寄りの高等学校の敷地までの距離は最も近い地点で約66.5メートルであるという立地条件にあり、本件処理施設を設置すれば、建設用重機の使用や廃棄物運搬車両の通行に伴い、周辺住民の生活環境や生徒の学習環境などに大きな影響を及ぼすこととなる。右のような本件処理施設の立地条件、周囲の生活及び学習環境、予想される影響の大きさを考えれば、本件処理施設を設置されれば、法一五条三項に基づく条件を付しても生活環境の保全を図ることは困難であり、法が通常予定している範囲を超える被害を及ぼすものであるから、本件許可申請の当否については、同条同項の条件を付する以前の問題であって、許可自体を拒否するのが相当である。

以上のとおり認められる。

2 しかし、法一五条は、産業廃棄物処理施設の設置を一般的に禁止した上で、許可申請にかかる産業廃棄物処理施設が同条二項各号に適合している場合に、個別的に右の禁止を解除するという方式により、財産権(土地利用権)の行使を公共の福祉の観点から制限しようとするものと解されるところ、憲法二九条一項は、「財産権は、これを侵してはならない。」と定め、同条二項は、「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」と規定して、公共の福祉の観点から財産権に制限を加える場合には法律によるべき旨を定めていること、法一五条二項は、「都道府県知事は、前項の許可の申請に係る産業廃棄物処理施設が次の各号に適合していると認めるときでなければ同項の許可をしてはならない。」と規定し、同条二項各号の適合性の要件を具備する場合に必ず申請を許可しなけばならないとの文言は用いていないものの、同条二項各号の適合性が充足された場合においてもなお、都道府県知事に対し、産業廃棄物処理施設設置の許可を与えるか否かの裁量権が付与されたと認めるべき規定が見当たらないこと等を考えれば、法一五条の許可制による財産権行使の制限は、同条二項各号の適合性の要件を欠く場合にのみ許され、右の適合性を充足する場合には必ず申請を許可しなければならない旨を定めたものと解することができ、そう解さないと、法の委任によらない財産権の制限を認めるのと同様の結果となり、そのような論理的帰結は到底是認し難いものといわなければならない。

なお、法一五条三項は、生活環境の保全に関する事由は許可の要件とせず、許可を与える際の条件にすることができる旨を定めたものにとどまることが、文理上も明らかであり、また、地方自治法は、住民の安全及び健康の保持、並びに公害の防止その他の環境の整備保全を普通地方公共団体の行政事務としているけれども、右行政目的のための都道府県知事の行為は、各行政法規を遵守し、個々の法令によって付与された裁量権の範囲内において行われるべきものであることは自明のことであって、何ら被告の主張するような裁量権の根拠となるものではない。

そして、右に述べた法理は、地方自治体の長として法の適正な執行等を職務とし、正しい法解釈に努めるべき立場にある北海道知事にとって、特に理解を困難とするような事情は窺われないほか、甲第一号証によれば、平成三年法律第九五号による改正前の廃棄物の処理及び清掃に関する法律七条及び一四条は、「許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。」と定め、法一五条二項と同じ文言によっていたが、その趣旨については、所定の要件に適合する場合は許可をしなければならないことを規定したものとする判断が、三件の裁判例によって既に示されていたことが認められるから、これらの事情に照らして考えれば、北海道知事が、右1(一)の誤った法解釈に基づき本件不許可処分をしたことについては過失があったものというべきである(なお、被告の提出する乙第四、第五号証の論文や判例評釈は、本件不許可処分後に公表されたものである上、法解釈論としても直ちに採用し難く、右過失の判断を左右しない。)。

3  してみれば、被告の公権力の行使に当たる北海道知事において、その職務を行うについて過失があり、違法に原告の財産権の行使を侵害したものであるから、被告は、国家賠償法一条一項により、本件違法行為によって原告が被った損害を賠償すべき義務がある。

三  そこで、損害について検討する。

1  原告は、本件不許可処分がなければ、少なくとも本件不許可処分の日の翌日である平成七年九月一九日から本件処理施設による廃棄物処理事業を遂行し、その準備資金として他から借り受けた合計二〇一三万一四四七円を有効に運用できたが、本件不許可処分によりそれが不可能になったとして、本件不許可処分の翌日から平成一〇年一月三一日までのうち八三四日間の右借入金に対する年五分の割合による金額を請求するが、原告の主張によっても、原告は、原告主張の金員を廃棄物処理事業の資金としては運用できなかったというにとどまり、他に運用方法がなかったとはいえないほか、仮に原告主張のとおり廃棄物処理事業の資金としては運用された場合でも、原告主張の期間において原告が右事業による利益が得られたことの主張立証はないから、原告の右主張は失当である。

2  原告は、本件不許可処分により、少なくとも本件不許可処分の日の翌日である平成七年九月一九日から平成一〇年一月三一日までのうち八三五日間、本件処理施設の設置場所である本件土地の所有者川原義信との約定に基づく埋立整地工事を実施できなかったため、少なくとも右日数に相当する期間分だけ、当該工事の完了が遅れ、川原義信と約束した工事完了期限である平成一六年四月一八日を徒過することになり、一日一〇万円の割合による約定損害金の支払義務を負うことになると主張する。

しかし、原告の主張によっても、川原義信との約束にかかる埋立整地工事完了の期限は未到来であって、現実に約定損害金の支払義務が発生しているわけではない上、その期限到来までには未だ数年あり、現時点で履行遅滞がが免れないとも判断し難いから、本件不許可処分によりその支払義務負担の基礎となる事実が発生したというにも足りない。そのほか、原告の右主張にかかる損害は通常損害とはいえないから(特別損害として請求しうる根拠についての主張もない。)、この点からも原告の右主張は失当である。

3(一)  甲第一、第二号証、第一四、第一五証、乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、原告が、本件原告訴訟代理人に対し前訴の提起と追行を委任したことが認められるところ、前訴事件の事案の内容、難易度、原告勝訴の裁判結果、事件係属及び終了の時期等にかんがみると、北海道知事の本件違法行為と相当因果関係のある前訴事件(第一審及び第二審)の弁護士費用は合計五〇〇万円と認めるのが相当である。

(二)  本件原告訴訟代理人が、前訴事件の第一審及び控訴審の口頭弁論期日出頭のため、札幌地方裁判所及び札幌高等裁判所に九回出廷し、北海道釧路市における前訴事件の検証期日にも出頭したことは、当事者間に争いがない。そして、甲第一六号証の一、二並びに弁論の全趣旨によれば、考えられる出捐の時期等も考慮した上、札幌地方裁判所及び札幌高等裁判所への各出廷のため要する旅費(航空運賃のほか陸路の交通費を含めて、以下同じ。)は合計四五万円、北海道釧路市における検証期日の出頭のため要する旅費及び宿泊代は七万円と認めるのが相当である。

(三)  右(二)の事実及び弁論の全趣旨によれば、本件原告訴訟代理人は、前訴事件のため合計一一日間出張したことが認められるところ、右出張のための日当は、出張の時期等も考慮して合計一〇〇万円と認めるのが相当である。

(四)  甲第一四号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告(又はこれに代わる者)が、前訴事件の第一審及び控訴審の口頭弁論期日出頭のため、札幌地方裁判所及び札幌高等裁判所に九回出廷し、北海道釧路市における前訴事件の検証期日にも出頭したことが認められるところ、これに要する旅費及び宿泊代は右(二)と同様合計五二万円と認めるのが相当である。

4  本件弁護士費用

原告が、本件原告訴訟代理人に対し、本訴の提起と追行を委任したことは、当裁判所に顕著であり、その事案の内容、難易度、認容額その他本件の諸事情を考慮すると、北海道知事の本件違法行為と相当因果関係のある弁護士費用は七〇万円と認めるのが相当である。

第四  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、国家賠償法一条一項に基づく損害賠償金七七四万円とこれに対する本件違法行為の日の後である平成七年九月一九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その範囲でこれを認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条、仮執行宣言につき同法二五九条を各適用し、仮執行宣言免脱の申立は相当ではないから却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・髙橋勝男、裁判官・高谷英司 裁判官・櫻井達朗は、転補につき、署名押印することができない。裁判長裁判官・髙橋勝男)

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